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弁護人は、検察官がこの事件を起訴した目的は表現行為の抑圧あるいは被告人らの所属団体の活動を抑制もしくは停止させることにあるのであって、公訴提起それ自体が違法(公訴権濫用)であると主張したが、これは斥けている。裁判所は、「本件各公訴提起には、ビラの記載内容を重視してなされた側面があることは否定できない」としながらも、他の商業的宣伝ビラに対するものとは異なる不快感を抱いていたという居住者の感情等に着目した。
また弁護人は、被告人らが立ち入った階段や通路部分は刑法130条(住居侵入罪)にいうところの「住居」には該当しない(「住居」でないところに立ち入ったに過ぎないから、住居侵入罪とはならない)と主張したが、裁判所は「住居」にあたるとしてこれを斥けている。更に、被告人らの立入りは「侵入」に該当しないとの主張もなされた。その理由として、住居の平穏を害するものではないという主張がされたが、被告人らの立入りは入居者らの意思に反したものであることを理由に、斥けられている。ほかに、入居者らはビラ投函のための立入りについては包括的に承諾していたという主張、被告人らの立入りを拒絶する意思も表現の自由の前には譲歩すべきであるという主張もされたが、いずれも斥けられている。
以上より、第一審は、被告人らの行為は形式的には住居侵入罪に該当する(構成要件該当性がある)と判断したが、「法秩序全体の見地からして、刑事罰に処するに値する程度の違法性があるものとは認められない」として、住居侵入罪の成立を否定した(無罪とした)。被告人らの立入り行為の態様が「相当性の範囲を逸脱したものとはいえない」ことを理由に、処罰するほどの違法行為はなかった(可罰的違法性がない)と判断したものである。
上記判断にあたっては、以下のような事実が根拠とされている。
- ビラ投函の動機が政治的意見の表明という正当なものである(自衛官に対する嫌がらせ等、不当な意図ではない)。
- ビラが配られる頻度は低く、配り方も、昼間に少人数で比較的短時間(30分程度)に周囲の静謐を害するものではない。
- 共用部分への立入りに止まるためプライバシー侵害の程度は低い。
- 入居者らの反対を殊更に押切って敢行されたわけではない。
- イラク派兵反対を唱えるビラの内容、は当時のメディアにおける反対論と比較しても、内容面・表現面において過激ではなく、他の反戦表現と比して特別の不快感を与えるものではない。
- ビラの投函を放置することによって行動がエスカレートしていく危険はない。
ビラ投函の動機を認定するに当っては、被告人らの所属する団体『立川自衛隊監視テント村』の性格(危険性)も争点とされている。これに関して検察官は、公安情報に基づき、被告人らが左翼・新左翼団体との関連があり、その団体は自衛隊海外派遣反対などの理由で立川基地内に爆発物を発射した事件など危険な事件に関与しているとの立証を行った。裁判所は、過去、同団体の「構成員によるやや不穏当な行動もみられる」とはしながらも、上記検察官の立証事項について、「仮にこのような事情があったと認められるとしても」、同団体全体の危険性を示すものではなく、また、本件ビラの投函行為に不当な目的があったとも言えないと判示した。これに関連し、第6回公判期日の被告人反対尋問において、検察官は、被告らの新左翼との接触や、立川基地内に爆発物を発射した事件、天皇制反対運動などとの関連について質問している。これに対し弁護側は「被告がどんな思想を持っているかは事件とは関係がない」との異議を述べ、裁判長もこれを認めている。
また、本件ビラの投函は憲法21条1項により保障された政治的表現活動であって、営業活動としての表現行為に比べ「優越的地位」が認められるにも拘らず、商業的なビラの投函が放置されている状況下において、正式な抗議等をしないままいきなり検挙することは「憲法21条1項の趣旨に照らして疑問の余地なしとしない」とも指摘した。
なお、第一審の第5回公判期日(9月9日)において、弁護側証人として憲法学者の奥平康弘と元防衛庁事務次官・元郵政大臣でイラク派兵違憲訴訟原告の箕輪登が出廷し証言した。奥平は、住居侵入罪の規定それ自体に問題があることや、現在社会において受け取りたくない情報が受忍されている現状から政治的に選別して刑事事件の対象とすることは許されないなどを証言した。その一方で、治安維持法のない現代、住居侵入罪などの一般法を用いる犯罪立件は、戦前への回帰であるとの懸念を表明するなど政府批判・国家批判をおこなった。