ランキングモンスター
一部の死刑廃止論者は、死刑は懲役と比較して有効な予防手段ではないとしている。
また、他の一部の死刑廃止論者は、死刑の抑止効果が仮に存在するとしても、他の刑との抑止効果の差はさらに小さい、ないしは均等であるとする。また、そもそも、抑止力などというものは将来にわたって確認・検出不能であると考えられるとして、明確な抑止効果、ないしはその差異が証明されない以上、重大な権利制限を行う生命刑が、現代的な憲法判断により承認されることはないとしている。実際に死刑を廃止したフランスでは死刑制度が存置されていた時代よりも統計的には凶悪犯罪が減少していることなどもあり、犯罪抑止効果などという概念自体科学的に疑わしいといわざるを得ず、また死刑に相当する犯罪行為の目撃者を死刑逃れのため「口封じ」することさえあるとして、犯罪抑止効果に対する懐疑性の理由としている。
それに対し、一部の死刑存置論者は、終身刑や無期懲役にしても統計的には明確な抑止効果は証明されておらず、終身刑や無期懲役が死刑と同等の抑止効果を持つことが証明されない限り、死刑を廃止すべきではないとする。また、個別の事件を見ると、闇の職業安定所で知り合った3人が女性一人を殺害した後にも犯行を続行しようとしたが、犯人のうち一人が死刑になることの恐怖から自首したという例もあり、死刑制度の存在が犯罪抑止に効果があるとの主張も根強くある。
テキサス州知事時代に数多くの死刑執行命令書に署名したジョージ・W・ブッシュは、2000年に行われた大統領選挙公開討論会において「抑止効果こそが死刑の唯一の存在理由だ」と語った<ref>スコット・トゥロー 『極刑』岩波書店 2005年 ISBN4000225456 71頁</ref>。このような認識は少なからざる人々の間で語られるが、数的根拠はない。死刑制度存続を必要とする理論的理由は後述のように犯罪被害者遺族のために必要とするなど複数存在している。また、死刑制度の代替と主張される終身刑(無期懲役)などの刑罰が、死刑と比べ相対的な犯罪抑止効果があるかを示す統計も出ていないのも事実である。すなわち、死刑と長期の懲役のうちどちらが犯罪を抑止する効果が優れているかどうかは誰も検証できていない。これに対してはそもそも「抑止力」という概念をあてはめること自体不適当ではないかという問題もあるとされる。
死刑の犯罪抑止効果について、の審査によると「どの論文も死刑の犯罪抑止力の有効性を証明できる基準には遠く及ばない」ものであるとしている。<ref>Roger Hood“The death penalty, a worldwide perspective”3rd.ed Oxford university press, 2002p.209-231</ref>。たとえばニューヨーク州では急速に殺人発生率が低下していたが、1995年に保守派により議会の働きかけで刑死刑制度が復活(2004年に州最高裁判所が州憲法違反判決を出したため事実上廃止)したが、死刑復活後も低い状態が続けていたため、見方によっては死刑の抑止効果が働いたともいえるが、実際に効果があったかは実証できないとされる<ref>スコット・トゥロー 『極刑』岩波書店 2005年 ISBN4000225456 73頁</ref>。なお、ニューヨークでは2007年に過去半世紀で最も少ない殺人発生件数を記録<ref>朝日新聞 2007年12月27日 それでも件数がけっして少なくない500件をきったという内容であった。</ref>したという。
また、アメリカ合衆国で最も死刑執行数の多いテキサス州は、殺人発生率が全米平均をはるかに上回っており、そのため、社会学者の中には死刑制度の存在が実は殺人を鼓舞している現われとする残忍化(brutalization)効果と呼んで悪影響をテキサス州社会に与えていると指摘している<ref>スコット・トゥロー 『極刑』岩波書店 2005年 ISBN4000225456 72頁</ref>。ただし、これも前述の抑止効果があるか否かとの同様に実証されたものではない。廃止派団体であるアムネスティ・インターナショナルはカナダなどにおける犯罪統計において死刑廃止後も殺人発生率が増加していないことを挙げ「死刑廃止国における最近の犯罪件数は、死刑廃止が悪影響を持つということを示していない<ref>死刑に関する事実と数字</ref>」と主張している。これに対し「アムネスティの数値解釈は指標の選択や前後比較の期間設定が恣意的であり、公正にデータを読めばむしろ死刑廃止後に殺人発生率が増加したことが読み取れる」という反論<ref>APHROS 死刑廃止と死刑存置の考察 世界各国の死刑存廃状況 カナダ</ref>がなされている。このような主張の正否はともかくとして、いずれの議論においても、死刑制度および無期懲役と凶悪犯罪発生率の間の因果関係の有無が立証されていない点では共通しているといえる。
死刑および終身刑に相当する凶悪犯罪が近代国家では少なくないため、統計で犯罪抑止力にいずれの刑罰が有効であるか否かの因果関係を明示することができないことから、統計的に結論が出るのは難しいのが現状である。特に日本では「犯罪が増加した」との指摘もあったが、それでもなお他の先進諸国と比較しても低い。たとえば犯罪白書によれば、2000年に発生した殺人の発生率及び検挙率の表<ref>平成18年度犯罪白書38頁</ref>では、は日仏独英米の5カ国では発生率は一番低く(1.2)、検挙率もドイツについて2番目によい(94.3%)。この数値を見れば死刑制度の存在が有効に働いているとの主張も可能であるかのようにいえる。しかし、もう一つの死刑存置国であるアメリカ合衆国の数値は、発生率が5.5で最悪、検挙率も63.1%と最低である。そのため死刑制度の存置が犯罪抑止に全く効果がないとの主張も可能である。アメリカが日本と違い殺人の手段として容易に用いることが可能な銃社会であるなど、社会条件に相違点があるとしても、このように統計のみでは死刑の犯罪抑止効果を見出せる事ができないといえる。
死刑廃止国では凶悪犯が警察官に射殺されることが多いという指摘がある<ref name="fujii"></ref>。また、フランスは死刑廃止と同時に刑法を全面改正して懲役を長くしたという指摘もある<ref name="fujii"/>。