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モーセのエジプト脱走は多くの研究者によって、前13世紀のエジプト第19王朝ラメセス2世(在位前1279-1213)の時代であると推定されているが、文書資料が豊富なエジプト側には一切の記録が無い。このことから旧約聖書にあるような壮年男子だけで60万人という大規模な脱走事件が起きた(出エジプト12:37、民数記1:46)という訳ではなく、ごく少数者の脱走事件であったのだろうと推定されている<ref>山我哲雄著 『聖書時代史 旧約篇』 岩波書店〈岩波現代文庫〉 2003年、ISBN 4-00-600098-7、pp.29-31</ref>。前述のイスラエル部族連合の中に「カリスマ的指導者に率いられてエジプトから脱出してきた」という伝承をもつ部族があって、その伝承が部族連合全体に広がって共有されていったのだろう<ref>山我哲雄著 『聖書時代史 旧約篇』 岩波書店〈岩波現代文庫〉 2003年、ISBN 4-00-600098-7、p.27</ref><ref>加藤隆著 『旧約聖書の誕生』 筑摩書房、2008年、ISBN 978-4-480-84717-1、p.90</ref>。
さらにエジプト脱出の伝承に、シナイ山における神の顕現に関する伝承が結び付けられて、シナイ山での契約の物語が成立したものと考えられている。このシナイ山は今日、シナイ半島南部のジュペル・ムーサ(標高2244メートル)とされているが、これは紀元4世紀以降にそう看做されるようになっただけであり根拠は無い<ref>山我哲雄著 『聖書時代史 旧約篇』 岩波書店〈岩波現代文庫〉 2003年、ISBN 4-00-600098-7、pp.35-36</ref>。
なお、イスラエル人たちが神と結んだ契約については繰り返し語られているが、申命記のそれはアッシリアが属国に結ばせた宗主権条約文と類似の構造を持つことが指摘されている<ref>『新版 総説 旧約聖書』 日本キリスト教団出版局、2007年、ISBN 978-4-8184-0637-7、p.120-124</ref>。つまり、大国と属国との契約関係を、イスラエル人は神と自分達との契約に置き換えたのである。