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北朝鮮が行った核実験の以前から、ドナルド・ラムズフェルド国防長官らネオコンが多かったブッシュ政権の対北朝鮮要求は、下記の「5施設」に対する「検証可能な後戻りできない解体」であった(これは1994年の枠組み合意が破られたあと、北朝鮮が核施設を再稼動したことによる)。
- 1)稼動中の老朽化した5MW黒鉛炉(年間核兵器1個分のPu生産)
- 2)核燃料製造設備
- 3)再処理施設x2ライン
- 4)建設中断中の寧辺50MW黒鉛炉(年間核兵器10個分のPu生産)
- 5)建設中断中の秦川200MW黒鉛炉(年間核兵器40個分のPu生産)
しかし、イラク戦争での死傷者が続出したことや開戦理由だったイラクの大量破壊兵器開発が誤りだったことが判明したため、国民の反発を受けてアメリカ共和党は上下両院で米民主党に多数を奪還された。そのためブッシュ政権ではイラク戦争を推進してきたネオコンが次々に辞職に追い込まれ、北朝鮮に対して大幅に妥協し、実質はなくても形式的に「対話による核廃棄」を妥結させて政権浮揚材料にしようとするコンドリーザ・ライス国務長官の勢力が主導権を握った。
2006年12月から2007年2月が葛藤の時期であった。2007年1月にクリントン政権で国防長官であったウィリアム・ペリーは米下院外交委員会で下記の発言を行った
- 「北朝鮮は寧辺に50MW黒鉛炉を建設中で此れが完成すると極めて危険である。まず中韓からの北朝鮮支援を絶つべきだが、それでも効果がない場合、(ソウル報復砲撃等)不測の事態覚悟で、大型原子炉を空爆破壊することも検討すべき」
2007年2月に国防総省は在韓米空軍基地にF-117 (航空機)を嘉手納にF-22 (戦闘機)などステルスを進出させた。 2007年2月にブッシュ政権は方針転換を発表、同年3月クリストファー・ヒル国務次官補と金桂冠外務次官が合意したが、その内容はブッシュ政権の当初の主張内容から著しく後退したものであった。すなわち下記の通りである。
- A)「検証可能な後戻りできない解体」は北朝鮮に拒否され「(1年程度で再稼動可能な)無力化」に変更された
- B)上記4)5)建設中の50MW/200MW黒鉛炉は無力化対象からも外された
- C)北朝鮮は2007年6月までに1)の5MW黒鉛炉を停止する代わりに、韓国が重油5万tの提供を同時に行う(米国は金融制裁は解除の方向と発言)。
- D) 北朝鮮は1)2)3)を無力化し、ウラン原爆計画を含む核開発計画の全貌を申告する代わり、5カ国は重油95万tを援助する
全般的にブッシュ政権は「対話による北朝鮮核廃棄を実現した」と国内に宣伝して政権浮揚を図れる「名」を取る事ができ、北朝鮮側は米軍による核施設空爆破壊も、詰め腹を切らされる形での核施設自主解体も免れて核施設を温存でき、重油100万tを援助として手に入れた「実」を取った形となった。北朝鮮核問題に於いて日韓の安全保障に非常に重要であった「北朝鮮核施設の解体」と「ミサイルの解体」は全く蔑ろにされた形での決着となった。
韓国は米軍による北朝鮮核施設空爆が38度線の北朝鮮砲兵によるソウルへの報復砲撃を招く恐れがあるため、北朝鮮核施設空爆のためにはソウル市民の避難等の大決断が必要であったが、2007年夏まで反日米・親北朝鮮政策の盧武鉉が大統領の地位にあったので、ソウル市民を避難させての空爆など思いもよらぬ状態であった。
日本では2006年核実験から2007年夏までは安倍晋三首相、麻生太郎外相体制であったが、支持率の低下にともない、主婦層集票の意図から拉致問題に傾斜するようになった。米国が北朝鮮の大型黒鉛炉解体やミサイル解体など日本の安全保障上重要な問題について実質的に何の解決もしないまま、北朝鮮と手打ちをしたことには何も抗議せず、核問題を話し合う場である6カ国協議において「拉致問題解決までは北朝鮮のテロ支援国家指定解除は行わないで欲しい」と自民党の集票の都合を繰り返すばかりであった。
また、米国のこのような方針に反発したのか、2007年5-6月麻生太郎外相と久間章生防衛相は、当時イラク戦争処理問題で苦境にあったブッシュ政権に対して、イラク戦争批判を行った。しかし、報復にブッシュ大統領、ディック・チェイニー副大統領から面談拒否され、(外相/防相)2プラス2会談の日程も決まらなくなるに及んで両人は陳謝した。2プラス2会談で両人は「米国の核の傘は有効(つまり日本核武装も米国による北朝鮮核施設空爆も不要)と認めます」と宣言させられて帰国し、日本の「核議論」は旗を揚げた当人によって幕引きされた形となった。
2008年現在、北朝鮮の核廃棄を象徴する政治ショーとして寧辺の老朽5MW黒鉛炉の蒸気冷却塔が爆破されたが、50MW炉、200MW炉も200基のノドン弾道弾も今のところ何も爆破/解体される予定はない。日本が核問題に優先して「拉致解決まで北朝鮮のテロ支援国家指定解除は待って欲しい」とブッシュ政権に頼んだ拉致問題も「拉致問題は忘れない」というライス長官の外交辞令と言える発言とともに、北朝鮮のテロ支援国家指定は解除されつつあるようにみえたが、大統領令によって国際緊急事態経済権限法が発動されたため、これらの制裁は大統領令が有効な間は継続される。また、米国財務省報道官は、「マネーロンダリング・違法金融・核拡散を防止するための金融制裁」を継続することを発表し、報道官は「まだ北朝鮮が国際金融システムへアクセスすることは認められない」と指摘しているため、今回は米国による対北制裁の主導権が国務省から財務省へ移っただけの形になっただけと言える。
尚、テロ支援国家指定解除になると北朝鮮はアジア開発銀行の融資対象となるため、朝銀信用組合問題類似の融資資金の核開発への不正転用問題の発生が懸念されているが、前述のとおり米国財務省によって国際金融システムへのアクセスが遮断されているために一切のドル決済ができないので(北朝鮮の資金の送金に関わった銀行は米国財務省の制裁対象になるため)、これは杞憂と言える。