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現在、絞首刑は、首にロープをかけて死刑を執行される者(以下「受刑者」)を落下させ、空中に吊り下げる方式でほとんどが行われ、わが国も明治6年以来、この方法を採用している。ところが、この方式の絞首刑では、落下直後に受刑者の首が切断されたり、またはそれに近い状態まで切断される例が世界各国で報告されている。
それらの一部は、1942年米国カリフォルニア州<ref>ロバート・ジェームズことメージャー・リゼンバー。クリントン・ダフィ著『死刑囚-88人の男と2人の女の最期に立会って』柴野方彦訳、サンケイ出版、1978年。当時、同刑務所長であったクリントン・ダフィの著作(「88MEN AND 2WOMEN」の日本語訳書籍</ref>や1962年カナダ・トロントの例<ref>アーサー・ルーカス Robert J. Hoshowsky『THE LAST TO DIE RONALD TURPIN, ARTHUR LUCAS, AND THE END OF CAPITAL PUNISHMENT IN CANADA』Dundurn Pr Ltd、2007年</ref>のように書籍になっている。英国では1953年に提出された議会への報告書<ref>「死刑に関する英国審議会(1948~1953)報告書」(HER MAJESTY’S STATIONARY OFFICE「ROYAL COMMISSION ON Capital Punishment 1949-1953 REPORT」1953年</ref>の中で取り上げられた。最近でも、2007年1月15日にイラク・バクダッドで処刑されたサダム・フセインの異父弟バルザン・イブラヒム・アル=ティクリティ氏(バルザーン・イブラーヒーム・ハサン)の例があり、首がちぎれて血だまりができた様子を撮ったビデオが一部の報道関係者に公開されている<ref>The New York Times, 2007.1.16</ref>。
通常、絞首刑では、ロープが伸び切った瞬間に受刑者の首を上下に引っ張る力がかかる。体重が重く落下距離が長いほど、受刑者の首にかかる力は大きくなる。この力が弱ければすぐに死亡することはなく、受刑者は数分もしくはそれ以上の時間をかけて窒息死することになる。逆に、首への衝撃がある程度強ければ、頸椎の骨折、脊髄の切断、及び首の動脈の損傷などが原因で短時間のうちに意識を失って死亡することになる。受刑者を落下させる目的はここにある。この首にかかる力が、首全体が耐えうる限界を超えた場合に、引きちぎられて首の切断が起きる。(法医学者の研究によると、どのくらいの力が加わると首が切断されるかまで判明している<ref>ヴァルテル・ラブル医学博士ら(オーストリア・インスブルック大学)「Erhangen mit Dekapitation Kasuistik - Biomechankik(頭部離断を伴った縊死 事例報告、生体工学)」1995年</ref>。)
このため、絞首刑を採用している国・軍隊では、執行方法を調整して首の切断を防止しようと努めてきている。その一例として、絞首刑を採用していた当時の英国や米陸軍では、首にかかる力を制限するために、受刑者の体重に応じた落下距離を定めて、落下表(drop table)公式ドロップテーブルを作成していた<ref>「Procedure for Millitary Execution」1959年 米陸軍省</ref>。英国は死刑そのものを廃止し米陸軍も今では絞首刑を採用していませんが、この落下表は現在でも絞首刑を採用している国などで採用されている<ref>The "Long drop" or measured drop method</ref>。
一方、わが国の絞首刑では、受刑者の首の切断を防止するための法律は存在せず、同趣旨の通達や命令の存在も明らかになっていない。落下表の使用はおろか存在すらも不明である。切断を防止する目的の規定を持った国でも起こっているのであるから、そのような規定を持たないわが国の絞首刑でも受刑者の首の切断は起こり得ると言える。
首が切断される可能性のあるわが国の死刑は憲法36条(残虐な刑罰の禁止)に違反する。
また、憲法31条は、法律の定める手続によらなければ生命を奪われないこと(適正手続の保証)を定めている。まず首が切断されるような死刑は刑法11条の定める「絞首」ではありえない。つまり、法律の定めていない執行方法を用いた死刑と言える。次に首が切断されれば、法律の定める「絞首」ではありえなりから、それを防ぐための規定は(それが本当に首の切断を防ぐことができるかどうかは別の話だが)、死刑の執行方法の種類を特定するために法律に明記されるべき内容(法律事項)である。ところが、わが国の法律には規定されていない。最後に最高裁の判例<ref>昭和36年7月19日大法廷判決(刑集15-7-1106)</ref>によって現在も有効であるとされている明治6年太政官布告65号は、受刑者を「地ヲ離ル凡一尺」まで落下させるように定めている。現在の刑事施設は刑場の床が開いて受刑者が落下する構造になっており、例えば東京拘置所では刑場の床から下の階の床まで約4mあるとされている<ref>[死刑]執行の現実(2)絞首、130年続く『読売新聞』2008年10月5日</ref>ことから、受刑者は約3.7m落下することになる。前述のティクリティ氏(体重80㎏足らず)の例などでは、2.4m程度の落下で首の切断が起こることからすると、わが国の死刑に関する規定をそのまま実行すると絞首刑のさいに受刑者の首が切断されてしまいかねない。つまり定められた手続の中に適正でない内容があるのがわかる。